子供じゃないもん'17

生きるって超せつない

卒業式で泣かないと冷たい人と言われそう


 2017年3月23日、 わたしは大学を卒業した。 
 今日書きたいのは、 卒業するまでの大学生活を振り返ったとか そういうのじゃなくて、 

 

 学生として見られる本当に最後の日で、
 社会人になる直前、 3月31日の夜のこと。 
 
 
 
 
 
 
 

 その日は仙台できのこ帝国のワンマンがあって、
わたしはそのチケットを2枚もっていた。
 ひとつは、大好きだったあの人のぶん。
 それ以外考えていなかったから、 
初めに断られたときショックだったのに 
平然としてるフリをしたのを覚えている。 
 
 
 
 
 
 
 
 
もういちど、誘ってみよう 
彼が来なかったら、
このチケットは 破り捨てて
ひとりで仙台に行こう 
 
そう思っていた。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「私の最後のわがまま聞いて」と 
ライブ当日の午後2時頃に連絡した。
 頑固な彼はどうせ行かないと言うだろうな〜と、 
ひとり準備しながら考えていた。 

 
でも彼は、私が最後のわがままと言ったのが 
ひっかかったのかもしれない、
とにかく 「行く」と言ってくれた。 
 
 
まさかだった。びっくりしてしまった。 
「なに着ようかな〜〜」なんてルンルンで服を選び出す始末で、 
なんだよう、もー、神様ありがとうねと思った。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
出発前にイオンモールのフードコートで
うどんを食べて腹ごしらえをし、
 彼を軽自動車の助手席に乗せて
他愛もない話をしながら
約3時間高速道路を走りぬけた。

 駅に着いたら、
彼は「服を見たい」といい
 nano universeへ向かった。 
かわいい服がたくさんあって、 
落ち着いたお洒落なヒゲのお兄さんが 
優しく接客してくれた。 
 
 
 
 

 彼はネットで見て欲しがっていた 
薄手のネイビーのチェスターコートを試着した。 
めちゃくちゃ似合っていてかっこよかった。 
 
わたしが「買ったら?」 というと、
彼は買うよ、と言って 
11,000円の春アウターを買った。
 
 
 
 
 そこから歩いて仙台darwinに行って 
時間ギリギリに行ったために 
人がもうわんさかいた。
 
 
 会場に入る前に荷物だけいれようとしたら もう空いているロッカーはなかった。
 
 彼はずっとnano universeのショップ袋を 手に下げてライブをみることになった。
 
 
 
 
 
 
会場に鳴っていた音楽がフェードアウトして、照明が落ちる。
さっきとは明らかに質が異なる音が耳に届く
ステージの上に入ってきたメンバーは、インターネットで見ていたあの顔だった。
 
 
 
ライブがはじまってすぐに、歌詞が ズキズキと突き刺さって、泣いた。 
 
 
彼にはたくさん傷つけられたけど 
よくここまで好きでいたなぁと 
自分をほめたくなった。 
 
 
もう楽になっていいんだよと 
ちあきちゃんに言われているような気がした。 
 
 
 
 
 
わたしの後ろで、彼は どんな顔をして、
どんな気持ちで この曲をきいているんだろう、と 
気になって何度か振り返りたくなったけど 
がまんした。 
 
 
 
 
 
今日はお別れの日なんだと、 
もうこの人を好きでいてはいけないと 
自分に必死に言い聞かせて 
わたしの好きがあふれないように。 
 
ナノユニバースの袋を片手に 
ぎこちなく拍手しているだろう彼を
 愛しいなどと思わないように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
だいすきな彼との曖昧な関係は 
今日でケリをつけようと考えていた。
 会いたくなる禁断症状を 
何度も強く断ち切って、いきようと 
仕事に集中して、忘れようと。 
 
 
 
 
だからそのぶん今日だけは 
いつもよりたくさん素直でいたかった。 
見えないものに傷つけられる日々を 
終えたくて必死になっていた。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ライブがおわってTシャツとキーホルダーを 買って
2人で「破産だね」と笑いあった。
 
 仙台で食べる大戸屋のごはんは 
なにか満足のいかない味だった気がするけど 
よく覚えていない。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
帰り道、疲れていた彼は 
リクライニングシートを最大限に 倒して、
2時間寝尽くしていた 
 
 
 
 
 
それを見て
やっぱりこの人に大切にされることなど 
一生ないのだなぁなんて考えながら 
今日のライブでやったきのこ帝国の曲を
小さな声で口ずさんで、運転した。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
最後まで甘えに甘えてしまって 
その夜は彼を抱き締めて、
いや 私が一方的に抱きついたが正しいかな 
とにかくふたりとも疲れていたから
ぐっすりと眠った
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
次の日の朝何事もなかったように 
バイトに行く彼を車で送った 
 
 
 
車を降りる時
彼は何か察したのか 
いつも言わないくせに 
「ありがと、またね」といった 
 
胸がぎゅーっとなったけど、
 わたしは「またね」じゃなく「じゃあね」と返した 
 
彼が見えなくなってから さよなら、
と、心でつぶやいた。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 4月になって、桜が咲いた。 
まだ少し寒いけど 
厚手のアウターをクローゼットの奥にしまった。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
わたしはいそいそと服を着て 
会社へ向かう準備をする。 
 
 
 
 
 
あの日断ち切ろうとした自分は無駄になっていた。
結局またこうして彼のベットで寝ているのだから、呆れてしまう。
バカだと分かっているのにやめられないのは
もう本当にバカになってしまっているからなんだと思う。
 
 
 
 
「ねえ、お花見しよ」 と、彼がつぶやく 
「いいね、花見したいな。いつ?」 
と、私は聞いた。 
 
 
 
 
 「いま」 
 
 
 
 
 
彼が窓を開けた先には 
7分咲ほどの桜の木がたたずんでいた。 
 
 
 
 
 
お手軽なお花見ね、まるでわたしのこと扱う時みたいに。
今になってそう思うけれど、その瞬間は桜に見とれていた。
 
 
あぁ、そういえば、そうだったね。 
あなたを好きになって、
もう 季節を四つとおりすぎたんだ。 
また同じ春がきたんだ。 
1年前の夜に、この木をみたこと 
おぼえているよ。真夜中の桜だった。 
 
 
 
 
 
 
 
 「いってきます」 
 
「いってらっしゃい」 
 
また彼を見送っている
 
 
 
 通い慣れたその家のドアをあけて
自由に飛び立てる日は来るのだろうか